#10 名もない贈り物 あとがき

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Afterword -あとがき-

「君はどうしてそう思うの?」
「今みえてるものをちょっと話してごらん」

思い返せすと子供の頃、父は時間の許す限り私の話をたくさん聞いてくれた。
そしてたくさんのことを話してくれた。

世界の歴史や哲学、音楽や美術、父が経験した世の中の感動、挫折……。
父が長い時間をかけて私に贈ってくれたものがあった。
「対話の心」だった。

12月は何を描こうかーー
クリスマスだから「おくりもの」をテーマに描こう。
そんなことからこの曲、「名もない贈り物」は始まった。

“おくりもの“ってなんだろうか。
改めてじっくりと考えてみた。

私が初めてもらった贈り物。
心に残っている贈り物。
自分が贈った贈り物。

「形のある贈り物」から離れて、「形のない贈り物」について考え始めるとさらに思考は広がった。

ちょっとしたユーモア、歌ごころ、諦めないしぶとさ、美しいと感じる心、自分の命……

これまで私が「ひとり」として完結しているものは何ひとつなくて、私は掛け替えのない「誰か」の時間を通じて贈られたギフトに生かされているのだと気づいたのだ。
私はその「形のない贈り物」をテーマに曲を描こうと思った。

曲を描き進めていくと、大切な人たちとの出会いが思い出された。
私の創作の根本を支えている対話の心を送ってくれた父をはじめ、
芸術のいろはを教えてくれた人たちとの出会い
強く心を持って前に進む友人との出会い
鍛錬の心を持って己の芸術を磨く人との出会い
受け取る感性を持っている人との出会い

届くのにゆっくりと時間がかかり、相手の心と心が触れ合わないと届かない。
でも一度届いたらそれはきえることはない、「名もない贈り物」なのだと。

それは、心にともる“きえない灯“のように思えた。
誰の心の中にもちゃんとあって、目にみえない、触れることのない、自分の心でしか感じ得ない、唯一無二の灯。

いずれ訪れる大切な人との別れの時も、予想をはるかに超える悲しい出来事が起こった時も、この灯だけは心にあることを忘れないでいたい。
そしていつの時代の人もそうであったように、私たちはそれを次に伝える使命があるのだ。
炎は紡がれていくのだから。

2021.3.29.悠実