#3 水平線上のアリア あとがき

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Afterword -あとがき-

私の祖母はアルツハイマーで亡くなった。

私のことはもちろん、最期の方は大事な一人娘である母のことも忘れてしまっていた。
それでも全てを忘れたわけではなく、断片的に思い出される記憶があった。

祖母を看取る中で印象に残っているのは、「音楽と記憶」の結びつき方だった。

私が祖母の愛した賛美歌を歌えば、いつもご機嫌になってくれた。
亡くなる直前も、歌を歌ってあげたら涙を流していた。
「もうほとんど自分のことも覚えていないのに、この歌は大好きみたいなんだ」と母が言った言葉に納得した。

– 記憶とはなんて儚いのだろうか。

この世に生きるものは皆、時間を止めることはできない。
それでも人は記憶という形で、肉体のある限り、確かに”時間”を留めておくことができるのだ。

祖母は一番最期にどんな夢を見たのだろうか。
ぼんやりとしていく記憶の中で何を描いたのだろうか。

“言葉を持たないあなたは、ただ音を奏でるだけ”
ずっと忘れられなかった想い人の声も、その人との時間も。記憶に溶けてしまったとしても、大好きな音楽がもう一度思い出の場所に連れてきてくれるのではないだろうか。

生きている時間の尊さを噛み締めながら。

そんな思いを込めてこの作品が完成した。

2020.8.26.悠実